国際規模のプロジェクトを実施し所蔵コレクションを世界に紹介することで、より多くの方々に作品をお届けするというフォンダシオン ルイ・ヴィトンのミッションに基づき、エスパス ルイ・ヴィトン東京では、イギリス出身のアーティスト マーク・レッキーによる個展「Fiorucci Made Me Hardcore feat. Big Red SoundSystem」を開催し、代表作2点を展示いたします。本展は、東京、ミュンヘン、ヴェネツィア、北京、ソウル、大阪のエスパス ルイ・ヴィトンにて開催する「Hors-les-murs(壁を越えて)」プログラムの一環として行われるものです。
マーク・レッキーは、1980年代末のイギリス、ロンドンで頭角を現した「ヤング・ブリティッシュ・アーティスト」(ダミアン・ハースト、トレイシー・エミン、サラ・ルーカスなどを含む)の世代に属するアーティストです。但し、彼はその後すぐにアートシーンからほぼ姿を消し、戻ってきたのは1990年代の終わりでした。社会 ── より具体的には文化産業 ── におけるアーティストの立ち位置は、レッキーにとって重要なトピックです。最近では、新しいテクノロジーと情報アクセスの急激な変革をきっかけに、いくつかの作品が誕生しています。彼のパフォーマンス / プレゼンテーション作品《The Long Tail》(2009年)は、2004年にイギリス系アメリカ人の作家 クリス・アンダーソンが提唱した「ロングテール」という概念から生まれたもので、インターネットが可能にする広範囲への流通により、ニッチな消費行動も利益の源泉になり得ると主張する理論に基づいて制作されました。同様に、レッキーは人間が身の回りの消費物と共存することに魅了され、工業製品とのコミュニケーションをもとにしたアニミズム的実践という、拡張された彫刻の概念を提案するにいたりました。
シャルル・ボードレールが書いた「現代生活の画家」の延長線上にあり、オスカー・ワイルドやジョリス=カルル・ユイスマンスのような、生活と芸術を結び付けた世紀末ダンディズムの継承者であるレッキー。身近な生活環境をツールとして、またインスピレーションの源として捉え、日常の経験から切り離された芸術、という考え方を拒みます。1970年代から1990年代にかけてのイギリスのサブカルチャー史を旅する彼の作品は、大衆文化が高尚なもの、興味に値するもの、本物の芸術作品を生み出す源と捉えられてこそ、真に評価されるのです。ビデオ作品《Fiorucci Made Me Hardcore》(1999年)は、レッキーのアートシーンへの復帰を高らかに告げる作品であり、大衆文化とそのDIY的アプローチに対する彼の関心を例証したものです。音楽バンドdonAtellerとJack Too Jackの創立者でもある彼は、レイヴ音楽を強烈な芸術表現のかたちと捉え、巨大なスピーカーの壁を立ち上げる作品《SoundSystems》(2001年-2003年)でそれを表現しています。本展で展示される《Fiorucci Made Me Hardcore with SoundSystem(10周年記念リマスター版)》(1999年-2003年-2010年)は、それら2つの初期作品を合わせることで、このDIY的アプローチを完璧に統合しています。
自身を取巻く文化的、物質的環境からインスピレーションを得るレッキーの世界は言うまでもなく、オンラインかつデジタルで、サイバネティクス技術と生体工学技術に支えられています。彼はそれを、作品にもよく登場させる自身が夢中なモノたちを通して語ります。彼の言葉によれば、「私はフェティシストで、モノを偏愛し、強く惹き付けられて、執着して、どうにかしてそれらを所有しなければと思っています。なぜならそのモノたちが、私を所有しているように感じるから。それに対してある種の応答をしたいのです」とのこと。それゆえに、漫画のキャラクター フィリックス・ザ・キャットを作品《Felix the Cat》(2013年)に取入れた時も、1928年に初めてテレビで放映された最初の主題となったこのキャラクター、つまりデジタル時代の幕開けのシンボルを援用することによって、この存在を自らのものにしたのです。
フォンダシオン ルイ・ヴィトンについて
フォンダシオン ルイ・ヴィトンは現代アートとアーティスト、そしてそれらのインスピレーションの源となった重要な20世紀の作品に特化した芸術機関です。公益を担うフォンダシオンが所蔵するコレクションと主催する展覧会を通じ、幅広い多くの人々に興味を持っていただくことを目指しています。カナダ系アメリカ人の建築家フランク・ゲーリーが手掛けたこの壮大な建物は、既に21世紀を代表する建築物と捉えられており、芸術の発展に目を向けたフォンダシオンの独創的な取組みを体現しています。2014年10月の開館以来、1000万人を超える来館者をフランス、そして世界各地から迎えてきました。
フォンダシオン ルイ・ヴィトンは、本機関にて実施される企画のみならず、他の財団や美術館を含む、民間および公共の施設や機関との連携においても、国際的な取組みを積極的に展開してきました。とりわけモスクワのプーシキン美術館とサンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館(2016年の「Icons of Modern Art. The Shchukin Collection」展、2021年の「The Morozov Collection」展)やニューヨーク近代美術館(「Being Modern: MoMA in Paris」展)、ロンドンのコートールド美術研究所(「The Courtauld Collection. A Vision for Impressionism」展)などが挙げられます。また、フォンダシオンは、東京、ミュンヘン、ヴェネツィア、北京、ソウル、大阪に設けられたエスパス ルイ・ヴィトンにて開催される所蔵コレクションの展示を目的とした「Hors-les-murs(壁を越えて)」プログラムのアーティスティック・ディレクションを担っています。これらのスペースで開催される展覧会は無料で公開され、関連するさまざまな文化的コミュニケーションを通じてその活動をご紹介しています。
マーク・レッキー
マーク・レッキーは1964年イギリスのバーケンヘッド生まれ。現在はロンドンを拠点に活動しています。
レッキーは労働者階級の家庭に生まれ、リバプールの対岸にあるマージー川西岸の小さな街で幼少期を過ごしました。サッカーのフーリガンとデザイナーズのファッションが混在する若者のサブカルチャーの中心地で育ち、1990年にニューカッスル・ポリテクニックを卒業し文学士号を取得、1997年にロンドンに移住しました。
彼の多岐にわたる活動は、ポップカルチャーとカウンターカルチャーの交差点に位置し、若者、レイヴ、ポップ、ノスタルジー、社会階級研究、イギリス史などを掛け合わせ、レディメイドの教えに従って彫刻、映像、音、パフォーマンス、そしてコラージュまでも融合しています。1990年代後半からは、大衆文化とテクノロジーの関係性を問う作品群を発表。2008年にはターナー賞を受賞しています。
マーク・レッキーは、ユリア・シュトシェク財団(ベルリン、2020年)、テート・ブリテン(ロンドン、2019年)、デンマーク国立美術館(コペンハーゲン、2017年)、MoMA PS1(ニューヨーク、2016年)、ハウス・デア・クンスト(ミュンヘン、2015年)、ハマー美術館(ロサンゼルス、2013年)、サーペンタイン・ギャラリー(ロンドン、2011年)、グッゲンハイム美術館(ニューヨーク、2008年)などの重要な施設にて、いくつかの個展を開催。また、ニューヨーク近代美術館、ロサンゼルス近代美術館、テート・ギャラリー(ロンドン)、ポンピドゥー・センターとフォンダシオン ルイ・ヴィトン(共にパリ)のコレクションに作品が収蔵されています。
《FIORUCCI MADE ME HARDCORE WITH SOUNDSYSTEM (10周年記念リマスター版)》
1999-2003-2010年
サウンド・映像設備、アンプ機器
フォンダシオン ルイ・ヴィトンでの展示風景(2015年)
© Mark Leckey
Photo credits: © Fondation Louis Vuitton / Martin Argyroglo
《FELIX THE CAT》
2013年
布、送風機
1200 x 500 x 500 cm
フォンダシオン ルイ・ヴィトンでの展示風景(2018年)
© Mark Leckey
Photo credits: © Fondation Louis Vuitton / Marc Domage